スチールギター チューニングの歴史 C6編

スチールギター チューニング歴史「C6チューニング」編

スチールギターのチューニング
 スチールギターには、沢山のチューニングの仕方があります。スチールギターはバーを使って弦を押弦しているので、どんなハーモニーでも自由に扱うことはできません。コードを弾くには、オープンチューニングに合わせた音の配列しか弾くことができないので、フレーズによってチューニングを変えることで、鳴らすことのできるハーモニーを作っています。そのため、弾きたいフレーズの流れやコードの種類によって色々なチューニングが生まれていきます。

 チューニングは演奏者の個性にも直結していきます。独特なチューニングはプレイヤーの個性を生みますが、汎用性は無くなっていくので、誰でもどんな曲でも使いこなせるものではなくなっていきます。

 汎用性があり、比較的誰でも使いやすいチューニングの配列が淘汰され残り、現在ペダル・スチールで主に使われている「C6」と「E9」になっています。これらのチューニングはどのように発展していったのかを見て、チューニングについて深く理解してみましょう。そして、スチールギターを弾くのにあたって、自分に合ったチューニングはどれなのかを探ってみましょう。

スチールギターの創世記
 スチールギターのチューニングの歴史は、ハワイのプレイヤーである「ジョセフ・ケクク」が米国に渡って演奏活動を開始した1900年初頭にさかのぼります。記録に残っている所でジョセフ・ケククのチューニングは「Aチューニング」だったようです。以下のようなチューニングになります。

 通常のアコースティック・ギターと同じゲージの弦で対応できる感じでしょうか。ダウン・チューニングで弾くスラッキー・ギターに対して、バーで弾きやすいように音程を上げているのも特徴的に見えます。これ以外にも幾つものチューニングが施行されていたとは思いますが、創世記のチューニングとしてこのAチューニングを発祥のチューニングとしましょう。

→Aチューニングについて

Aチューニングの変化
 初めにチューニングの変化が見られる1920年代を見てみましょう。ハワイ出身の「ソル・ホオピイ」のチューニングは以下のようになっていました。低音弦と高音弦のチューニングがオクターブになっており、音域はハイ・トーンに寄っているのが特徴です。音域は変化していますが、この時にはまだトライアドの中で変化しているだけですね。メジャー・コードを中心としたプレイが殆どだったので、トライアドのチューニングも多く使われていたようです。


 このチューニングはBuddyEmmonsのアルバム「Steel Guitar」の2曲目「Medley」の最初の曲「Wabash Cannonball」で使われているチューニングです。アコースティック独奏のスタイルで軽快に弾いていますので、サウンド感はそちらも参考にしてみて下さい。

A7チューニングの誕生
 Aチューニングに大きな変化をもたらしたのがロイ・スメックの登場です。弦楽器の魔術師と呼ばれるほどの卓越したプレイヤーであり、ウクレレやバンジョーの素晴らしい演奏も多く残していますが、スチールギターにおいても名プレイヤーでありました。ロイ・スメックのチューニングは7thが含まれた以下のような音程になっていました。

  Aチューニングと並行して使われていた「E7チューニング」にも7thトーンへの変化は見られたのですが、トライアドのEコードの何れかの弦を変化させる形で7thコードを構成していたのに対して、このA7チューニングは7th弦を追加しています。この弦を追加するというのはプレイヤーにとって難しい選択になると思うのですが、これによってAチューニングにも7thトーンが加わり、ハーモニーの幅が広がってきたわけです。

 このチューニングではG音が6弦の位置になり、5弦よりも高い音程が手前に配置されることになります。同じような年代に、他の様々なプレイヤーによって、G弦を3弦に配置する以下のようなチューニングも考案されていたようですが、多くの実用例があるわけではなさそうです。

Cチューニング
 AHighチューニングのC♯を半音下げて「C」Aを1音下げて「G」にすることで「Cチューニング」を作ることができます。このチューニングも積極的に実用で使われていたものではないようですが、特定の弦のチューニングを変えることで、別のハーモニーを生み出す試みは色々行われていたようです。6弦をBbにしてC7thチューニングにする方法や、9thや11thを混ぜるチューニングもあったようですが、やはりチューニングの固定にはプレイヤーのスキルが伴っていないと汎用性と実用性を両立することはできないのでしょう。従って大きな変化は次の革命児が登場するのを待つことになります。

C6チューニング
 ここでスチールギターのチューニングに革命的な変化がもたらされます。CチューニングにA音を挟んだのか、A7チューニングのC♯音を変化させたのかは分かりませんが、ジェリー・バードの登場によってC6チューニングの演奏が確立されます。チューニングは現在でもお馴染みの下記の順になります。ジェリー・バードのC6チューニングにより、ラップスチールにおけるC6チューニングはほぼ完成したと考えていいでしょう。この後はプレイヤーによって微妙な違いが施行されましたが、大元になるチューニング方法は変わっていません。

C6/A7チューニング
 ジェリー・バードのC6チューニングの6弦を半音上げてC♯にすると、低音部にA7のコード・トーンを見ることができます。これは、1ポジションの高音部と低音部に別のハーモニーを持ったハイブリッド・チューニングになっています。このチューニングによって、C6チューニングは7thコードを鳴らすことができるようになります。C6/A7チューニングについては以下の記事で更に詳しく解説しておきます。

C6/A7チューニング

 ラップ・スチールでのC6チューニングは多弦へと進化していきます。弦を1本足して7弦、更に8弦へと発展していきます。いずれにしろ6弦のチューニングを元に、更に高い弦、低い弦を足すことで多弦化していますので、プレイ・スタイルはほぼ変わることなく、音域を広げることができるようになっています。低音弦を足すとコード・フォームを増やすことができるので、ハーモニーの幅は格段に広がりますが、ピッキング・フォームが複雑になるので、演奏の難易度は上がっていきます。

 ラップ・スチールのC6チューニングが確立するのと並行して、各弦を個別に音程変化させるペダル・スチールへと楽器の機構が移り変わっていきます。C6チューニングはペダル・スチールの初期チューニングとして使われ、ペダル・スチールの名手である「Bud Issacs」「Jimmy Day」「Buddy Emmons」によって、チューニングやプレイ・スタイルが確立していきます。次回は更に発展するチューニングの歴史についてもう少し掘り下げてみましょう。

金髪先生

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