ブルーグラス・ギタリストとお奨めCD

ブルーグラス・ギタリストとお奨めCD
ブルーグラスの名手と、彼らが残した名演を納めたお奨めCDを紹介します。ブルーグラスに限らず、ギター・プレイの上達において一番の近道は、名演のコピーをすることです。これらのCDをよく聴いて、少しでもそのフィーリングを掴んで、自分のプレイに幅を持たせられるようにしてみましょう。


ドク・ワトソン(Doc Watson)
 1923年3月3日、アメリカ合衆国ノースカロライナ州ディープキャップ出身のギタリスト。アメリカのトラディショナルな音楽を、卓越したテクニックと朴訥とした温かみのある歌声で紹介し続けた、アメリカの人間国宝的プレイヤー。

ドク・ワトソンは、生まれつき目に障害があり、1歳頃には完全に見えなくなっていたと言われている。しかし、家族が音楽好きの一家だったため、幼い頃より様々な音楽に親しんでいた。11歳の頃、父親お手製のバンジョーを手にしたのがきっかけで楽器を演奏し始める。特にアコースティック・ギターに於いては、あっという間に完璧に弾きこなし、周囲を驚かせていたようだ。そんな、ドク・ワトソンの演奏スタイルは、ブルーグラス、ブルース、カントリー、フォークなど様々なエッセンスをドクなりに吸収した非常に幅広いもの。お得意のクロス・ピッキングを用いた高速フレーズだけでなく、フィンガー・ピッキングを用いた弾き語りなど演奏スタイルは多岐に渡っている。アコースティック・ギターのプレイに於いては、ブルーグラスに限らず、様々なジャンルのギタリストに影響を与えている偉大なギタリストだ。また、ドクが登場する以前は、ブルーグラスではギターは主に伴奏楽器であったが、ドクは高速フレーズにも対応する驚異的なピッキング・テクニックを用い、リード楽器としてのギターの価値を高めた。

DocWatsonオススメCD「DocWatson」
1963年発売のドクのデビュー作。後世まで残る、名曲&名演が目白押しの聴き所満載の一枚。ドクお得意のフラット・ピッキングで弾くブルーグラス・ギターの名曲「BlackMountainRag」や、ドク流ブルース「NashvilleBlues」、また高速フィンガー・ピッキングが炸裂する「Doc’sGuitar」、味のある渋いボーカルを堪能できる弾き語りの「SittingOnTopOfTheWorld」、「DeepRiverBlues」など、ドクの幅広いプレイ・スタイルを存分に味わえる1枚だ。ギタリストだけでなく、アメリカのトラディショナル・ミュージックを聴いてみたい全ての人にオススメ出来る名盤だ。


クラレンス・ホワイト(Clarence White)
1944年6月7日、アメリカ合衆国メイン州ルイストン出身のギタリスト。ブルーグラス・バンドのケンタッキー・カーネルズ、ロック・バンドのザ・バーズで共にギタリストとして活躍。主にブルーグラス、カントリー・ロックというジャンルでのギター奏法に革新をもたらしたが、交通事故のため29歳の若さでこの世を去った夭折の天才ギタリスト。

クラレンス・ホワイトの一家は、一流のブルーグラス・ミュージシャンであった父親の影響で、常に音楽に囲まれていた。そのため、クラレンス・ホワイトは兄弟とともに、幼い頃より様々な楽器に親しんでいたようだ。クラレンス・ホワイトは兄弟とともに、後に伝説のブルーグラス・バンドとして語り継がれるケンタッキー・カーネルズを結成する。ケンタッキー・カーネルズでは、ドク・ワトソンらが確立させたブルーグラスに於けるリード・ギターをさらに発展させたスタイルで人気を得る。ブルースやジャズ等から影響を受けた、躍動的でスリリングな即興演奏が特徴で、ブルーグラス・ギターによるリード・プレイを芸術の域まで高めた。音程差のあるフレーズと独特のリズム感から紡ぎ出されるシンコペーションを多く含んだフレージングは、それまでのブルーグラス・ギタリストとは一線を画し、非常に革新的だった。しかし、1960年代も後半になると、ブルーグラスの人気が低迷し始め、同ジャンルからリスナーが離れ始めると同時にバンドも解散せざるを得ない状況へと追い込まれる。バンド解散後はアコースティック・ギターをエレクトリック・ギターに持ち替え、カントリー・ロックの世界へ飛び込んでいく。様々なセッション・ワークをこなしながら、ロック・バンドのザ・バーズではギタリストとして活躍し、ロックの世界でも革新的なプレイで聴衆を魅了した。

オススメCD「AppalachianSwing」
1964年にケンタッキー・カーネルズ名義で発売されたアルバム。当時20歳のクラレンス・ホワイトによる、到底20歳とは思えないほど完成されたダイナミックなギター・ワークが聴ける一枚だ。ブルーグラス、カントリー、フォーク、ジャズなどの幅広いテクニックを応用した、彼の表情豊かで独特なプレイ・スタイルをたっぷり味わえる。特に「I Am A Pilgrim」における、独特の後ノリのリズム感で奏でられるブルージーなプレイは、クラレンス・ホワイトならではの個性的な名演だ。


トニー・ライス(Tony Rice)


1951年アメリカ合衆国バージニア州ダンビル出身のギタリスト。トラディショナルなブルーグラスにジャズ的なコード進行や、キャッチーなメロディーをミックスし、ニューグラスという新しいジャンルを切り開いたフロンティア・スピリッツに溢れたギタリスト。ギタリストの枠を超え、新しい時代のブルーグラスを牽引していったミュージシャン。

トニー・ライスは、彼の父ハーブ・ライスの勧めで、ブルーグラスの世界に足を踏み入れる。カリフォルニア州で育ったトニーライスは、兄弟とともに、クラレンス・ホワイトなどのロサンゼルスのミュージシャン達からブルーグラスの基礎を学んでいった。特に、クラレンス・ホワイトからは大きな影響を受けたようで、トニーは現在でもクラレンス・ホワイトが愛用していたマーティンD-28をメイン・ギターとして使用している。トニー・ライスはそのキャリアの中で、様々なミュージシャンと交流し、自らのスタイルを形成していった。特にデヴィッド・グリスマンとの出会いは、彼の音楽性の幅を大きく拡げる要因となり、デイヴィッド・グリスマン・クインテッドで学んだ、コード理論と複雑で高度なアドリブ演奏は、彼独特の演奏スタイルの礎となった。デイヴィッド・グリスマン・クインテッド脱退後は、ソロや、トニー・ライス・ユニットなどで精力的に活動し、自らの音楽を追求していった。そのような活動が評価され、現在ではニューグラスの立役者の一人としてブルーグラス界で確固たる地位を築いている。

オススメCD「Mnzanita」
1979年にトニー・ライス・ユニット名義で発売されたアルバム。トラディショナルなブルーグラスへのリスペクトを感じさせながらも、従来のブルーグラスの枠を超えたスケールの大きな傑作だ。特に、表題曲の「Manzanita」はスムーズなコード進行と、何とも言えない悲哀感を含んだメロディーが非常に心地よい名曲。さらに、リッキー・スキャッグス、デイヴィッド・グリスマン、ジェリー・ダグラスなど、ブルーグラス界を代表する錚々たるメンバーが奏でる質の高いアンサンブルも聴き所だ。


ノーマン・ブレイク(Norman Blake)


1938年アメリカ合衆国テネシー州チャタヌーガ出身のギタリスト。トニー・ライスと並ぶ、ブルーグラス界の大御所ギタリスト。アーシーな歌声と確かなギター・テクニックで、一貫してアメリカのトラディショナル・ミュージックを演奏し続けている。そのキャリアの中で、ボブ・ディランをはじめ、様々なアーティストと共演し、高い評価を得ている。

幼い頃より音楽に親しんでいたノーマン・ブレイクは、16歳ごろにはブルーグラスバンドを結成し、マンドリン奏者として演奏活動を行っていたようだ。ノーマンブレイクは一般的に、アコースティック・ギターにおける最も傑出したフラットピッカーの1人として認識されているが、バンジョー、マンドリン、フィドル、ドブロ・ギターといった、ブルーグラスで使用されるあらゆる楽器をマスターしたマルチ・プレイヤーでもある。ノーマンブレイクはマルチ・プレイヤーであるがゆえ、様々な楽器特有の演奏スタイルを理解し、それをアコースティック・ギターに置き換えて演奏することが出来た。ゆえに、彼のフレーズは独特で、非常に個性的な輝きを放っている。ノーマンブレイクの音楽はトラディショナルなアメリカン・ミュージック(主に、フォーク、ブルーグラス、カントリーなど)を基にしたものであるが、そのスピード感溢れるプレイと独特な演奏スタイルで、新伝統主義と呼ばれることもある。また、ノーマンブレイクはトラディショナル・ミュージックを演奏するプレイヤーとしてのみでなく、作曲家としても非凡な才能を発揮している。彼の作曲した「GinsengSullivan」「SlowTrainThoughGeorgia」「ChurchStreetBlues」などは、ブルーグラスや、フォークの世界では新しいスタンダード・ナンバーとして頻繁に演奏されている。

オススメCD「BackHomeInSulphurSprings」
1972年発売のノーマン・ブレイクの1stアルバム。アメリカのトラディショナル・ミュージックを中心に、ブレイク作曲のフォーク・スタイルの歌モノやインスト曲を集めた名盤。自身の代表曲の1つ「GinsengSullivan」を収録したノーマン・ブレイクの代表作だ。アコースティック・ギターに関しては、一聴してとても1人で弾いているとは思えないような、フラット・ピック・スタイルの超絶プレイを聴くことが出来る。また、アコースティック・ギターの他、ブレイク本人によるマンドリンの演奏も楽しめる。


ブライアン・サットン(Bryan Sutton)

 

1973年、アメリカ合衆国ノースカロライナ州アッシュビル出身のギタリスト。現代のブルーグラス・シーンを代表するミュージシャンの1人であり、現役のブルーグラス・ギタリストの中でも特に高度なテクニックを持った実力派ギタリストだ。日本での知名度は低いが、カントリー・ミュージックの聖地ナッシュビルでは、常に引っ張りだこの売れっ子セッション・プレイヤーだ。

サットンの故郷、アッシュビルはブルーグラスやマウンテン・ミュージックが盛んな地域で、ブルーグラス・ミュージシャンとして経験を積む上で理想的な環境が整っていたようだ。サットンの一家は非常に音楽好きで、彼の祖父と父は一緒にブルーグラス・バンドで演奏していたそうだ。8歳でギターを始めたサットンは、祖父や父の影響を受けながらミュージシャンとしての基盤を築いていった。また、サットンは、ブルーグラスだけではなく様々なスタイルに興味を持っていたようで、ノースカロライナにいた時代に好んでジャズ・ギターを学んでいたようだ。サットンの現在のプレイ・スタイルは、伝統的なブルーグラスのフラット・ピッキング・スタイルと21世紀のルーツ・ミュージック・シーンのダイナミズムを高次元で融合させた非常にクリエイティブなものであり、それは、彼のブルーグラスに固執しないフレキシブルで、好奇心旺盛な探究心に由来するものだろう。
サットンはそのキャリアの初期に、リッキー・スキャッグスのブルーグラス・バンド「ケンタッキー・サンダー」のメンバーとして活動し、そこで頭角を現した。その後、様々なミュージシャンから仕事の依頼がひっきりなしに来るようになり、セッションの仕事へと活動の中心を移していく。サットンはスキャッグスの他にも、ディクシー・チックス、ジェリー・ダグラス、サム・ブッシュ、ベラ・フレック、ホット・ライズ、クリス・シーリ、トニー・ライスなどとツアーを行っている。2007年には、ギタリストのドック・ワトソンとのデュオで演奏したブルーグラスの伝統的な曲”Whiskey Before Breakfast”がグラミー賞に輝いている。

オススメCD 「BluegrassGuitar」」
2003年発表のブライアン・サットンのセカンド・ソロ・アルバム。タイトル通り、純粋なブルーグラスを志向した楽曲が多く収録されている。長い間ブルーグラスを愛聴してきたブルーグラス・ファンにも、ブルーグラスを始めたばかりのブルーグラス初心者にもオススメできる、ストレートな良作だ。どんなに速いフレーズでもきっちりと弾きこなし、かつ芯のある太い音を確実にプレイ出来るサットンのテクニックにはただただ圧倒されるばかりだ。


デビッド・グリアー(David Grier)

1961年、アメリカ合衆国ワシントンDC出身のギタリスト。ユニークなフレーズと、テーマに対する様々なバリエーションを作り出す能力を持った、唯一無二のギタリスト。ブルーグラス・ギタリストは良くも悪くも、ドク・ワトソンや、クラレンス・ホワイト、トニー・ライスなどの偉大な先達の影響を受け、それを発展させたプレイ・スタイルになることが多いのだが、デビッドのギター・プレイは先達のギター・ヒーロー達の誰とも違った、高いオリジナリティを有している。現代のブルーグラス・ギタリストの中では、オリジナリティの面で、抜きん出た存在感を放つギタリストだ。

デビッドは、ブルーグラスのレジェンドであるビル・モンローのバンドで数年にわたりバンジョーを演奏していた著名なバンジョー奏者、ラマー・グリアーを父に持ち、音楽的素養の高い家庭で育った。ブルーグラスが常に身近にあったため、デビッドは自然とブルーグラスをプレイするようになっていった。また、父が一流のブルーグラス・プレイヤーということもあり、幼い頃からブルーグラス・ミュージシャンとの交流も盛んだった。特にクラレンス・ホワイトは、幼い頃のデビッドへ非常に大きな音楽的影響を与え、デビッドに演奏の手ほどきもしていたようだ。そのため、デビッドの演奏スタイルはクレランス・ホワイトに強く影響を受けたもので、フレージングの随所にその影響が感じられる。ただ、ブライアン・サットン同様、デビッドもブルーグラス一筋というわけではなく、17歳ごろからカントリーやロックに興味を持ち始め、エレキ・ギターをプレイしていた時期もあったようだ。バック・オーウェンスやエリック・クラプトンなど、数多くのミュージシャンから影響を受け、そのスタイルを確立していった。プロのギタリストとして活動をし始めてから、非常に多くのミュージシャンのセッションやアルバムに参加し、キャリアを確実なものにしていった。

オススメCD「LoneSoldier」

1995年発表のデビッド・グリアー主導のブルーグラスユニットによる作品。ほとんどの曲が彼のオリジナル・インスト・ナンバーで、ブルーグラスの新たな可能性を模索した意欲作だ。デビッドのフレーズからは、ブルーグラスをはじめとするルーツ・ミュージックの伝統へのリスペクトが感じられるが、同時にそれを自分の個性を表現するためのツールとして上手く活用するクレバーな印象も受ける。様々なスタイルを内包した、デビッドのギター・プレイは一聴の価値あり。


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